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学校教育が「社畜」を生み出す土壌になっているだって?

和田実さんという方が書いた「社畜を“育む”学校教育?"やりがい""自己実現"という洗脳が社員を蝕む」という記事では、日野瑛太郎さん著の「あ、"やりがい"とかいらないんで、とりあえず残業代ください」で提起されていた議論が紹介されている。その議論とは、簡単にいえば「人が"社畜"へと洗脳されていく過程がある」というものだ。


こうした議論は今野晴貴さん著の「ブラック企業」でもなされていて、日野さんの本に書かれている議論は今野さんの議論と結構重複している。具体的には「就活や新人研修で洗脳がなされることで、人が違法行為を受け入れるようになっていく」という主張などが共通している。ただ一方で、僕が見落としているのでなければ日野さんの本のみで主張されていることもあって、それが「学校教育が社畜を生み出す土壌になっている」というものだ。


その具体例の一つとして挙げられているのが職場体験だ。本では次のように書かれている。

学校教育の目玉である職場訪問・職場体験でも、強調されるのはこういった労働の「自己実現」「社会貢献」といった側面です。「仕事にやりがいをもって取り組む大人たちの姿」や「人や社会の役に立つことで金銭以外の喜びを得る大人たちの姿」をたくさん見せられて、子供たちは「働くことはお金のためだけではない」ということを学ばされます。このように、「働くことはお金のためだけではない」と教えられているうちはまだいいのですが、あまりにも「仕事で得られるお金以外のもの」が強調されすぎているため、いつしか生徒たちは「お金よりも、やりがいの方が大事だ」という価値観が正しいと考えるようになります

冒頭で触れた和田さんは、記事の最後で「著者は戦後から社畜化教育の歴史を振り返るが、歴史を見れば、明治期の"軍人勅諭"や"教育勅語"に見られる"滅私奉公"の思想が、戦後は"国"から"会社"へとその対象を変えたにすぎないことは明らか」と言っているので、恐らく日野さんの話の大部分に同意しているのだと思う。ただ僕は、特に引用部分の最後「いつしか生徒たちは"お金よりも、やりがいの方が大事だ"という価値観が正しいと考えるようになります」という点に違和感を覚えた。単純に「本当に生徒たちはそんな価値観を持ってるの?」という感覚もあるけれど、それ以上に(これはこれで問題がある気がするが)「職場体験で得た気づきが生徒の心に残っているものだろうか?」という疑問がある。


このように感じているので、職場体験への評価としては児美川孝一郎先生が「キャリア教育のウソ」という本で展開している主張の方が個人的にはしっくりくる。児美川先生は、労働政策研究・研修機構が全国の20代半ばの若年者を対象に実施した「学校時代のキャリア教育と若者の職業生活」という調査を紹介しながら、職場体験というイベントが生徒に「気づき」をもたらすことは確かだけれども、その気づきが学生の中に定着し後々にまで影響を与えるのかというとそういう訳ではないと主張している。要は、現在の職場体験の問題点は体験が「一過性のイベント」に留まり、そこで得たことが風化してしまう点にあるのだという。


何をもって「一過性」と言えるのかというと、具体的には中学生の時はほぼ全員が職場体験に取り組むにも関わらず、高校生になると3割弱しか取り組んでいないという事情が挙げられるらしい。即ち、(僕もその一人だが)多くの人にとって「職場体験」とは中学の時に一度やって、その時点では何となく楽しめたり気づきを得られたりしつつも、結局のところその時の経験は後にほとんど忘れてしまっている・・・という性質の体験になってしまっていると言える。


上述の「学校時代のキャリア教育と若者の職業生活」という調査では、「中学時代に将来の進路や職業について学習したこと」が「かなり役立っている」と答えた人はわずか1.9%で、「やや役立っている」と答えた人も16.2%に留まるという結果が出ているそうだ。逆に「ほとんど役立っていない」と答えた人は32.9%で、「あまり役立っていない」と答えた人も25.1%いる。児美川先生はこのデータも踏まえて「職場体験の教育的効果は小さいのではないか?」と主張していて、確かにこうしてみると、現在の職場体験には「社畜を生み出す土壌になっている」と言えるほどの影響力は無く、その問題点は「何となく行われている、あんまり意味が無いイベントになっている」と捉えるのが妥当なのではないかと個人的には思っている。

現在の職場体験の問題点は、体験が「一過性のイベント」に留まっていることなんじゃないか?という意見に共感してくださった方は、もし宜しければクリックをお願いします
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No title

はじめまして
現在、就活中の地方国立大理系修士のものです。

就活に疑問を感じこのブログを拝見させていただいています。


むしろ職業毎の現実を知らないで就活をせざるを得ない状況であることが
社畜を生んでいると思います。
細かい職の仕事が分からないため企業側の情報を頼りにするしかなく
その結果として社畜に洗脳させられるのではないのでしょうか。


>「お金よりも、やりがいの方が大事だ」
これを言ってるのはむしろ企業側や就活コンサルタントだと思いますが・・・


>「何となく行われている、あんまり意味が無いイベントになっている」
そもそも中学校で行われる職業体験は学校行事であって
仕方なく行ってみたという感じがします。


なんだか思いつきが多すぎて読みづらいコメントになってしまって申し訳ありません。

Re: No title

>prayer さん

こんばんは、コメントありがとうございます。

>むしろ職業毎の現実を知らないで就活をせざるを得ない状況であることが社畜を生んでいると思います

記事で出てきた今野さんや日野さんは「労働者の権利を教える教育が欠けている」と問題提起していて、その主張は自分の中で結構しっくりきています。ただ、

>これを言ってるのはむしろ企業側や就活コンサルタントだと思いますが・・・

というのはその通りだと思いますし、そんなことを言っている小・中学校、そんな風に考えている小・中学生なんか存在するのか?と疑問に思いました。 

職場体験によって子供たちは「働くことはお金のためだけではない」ということを学ばされるという主張に対して、私の意見はむしろ逆で"金を稼ぐのはこんなに大変なんだ"と学び、だからこそ、その経験が基盤となって“お金を貰う以上、大変なのが当然”と考え、ひいては“社畜”と言われる存在になっても疑問を持ちにくい(他の人もこなしていると考える)のではないかと思います。

Re: タイトルなし

>stam さん

こんばんは、コメントありがとうございます。

>私の意見はむしろ逆で"金を稼ぐのはこんなに大変なんだ"と学び、だからこそ、その経験が基盤となって“お金を貰う以上、大変なのが当然”と考え、ひいては“社畜”と言われる存在になっても疑問を持ちにくい(他の人もこなしていると考える)のではないかと思います

どうでしょうか・・・。職場体験などで「仕事の辛さ」が強調される局面というのは無かったと僕は記憶しているので、「stam」さんの分析には正直違和感を覚えました。

No title

この人の論理からしたら社会(コミュニティ)に関わる活動はなんでもかんでも社畜養成の土壌とこぎつけられそうなものだが。
程度・限度の問題なのにこじつけで社畜を絡めてしまうと、社畜にならないためには起業家・投資家として文字通り働かずして生きるか文明社会から隔絶して一人で生きるかしかなくなる。

しっかし、入学式始業式終業式卒業式での国歌斉唱に文句する
そっち系の人たちみたいな言い分だw

本文の意見には同意ですが、タイトルが「学校教育が~」と始まっているのに、論の中心と結論が職場体験についてしか述べられていないのには違和感があります。
変な意見すみません。

Re: No title

>の さん

こんばんは、コメントありがとうございます。

>この人の論理からしたら社会(コミュニティ)に関わる活動はなんでもかんでも社畜養成の土壌とこぎつけられそうなものだが。程度・限度の問題なのにこじつけで社畜を絡めてしまうと

まぁ、それが日野さんの芸風なんでしょうね。僕も当該文章を読んだ際には「の」さんと同様に「ただのこじつけだ」と感じたのですが、一方で記事で取り上げた和田実さんのように日野さんの主張に共感している人もいるわけで、それに対しては「一体どうなってるんだ?」と呆れざるを得ないですね。

Re: タイトルなし

>初コメ さん

こんばんは、コメントありがとうございます。

>タイトルが「学校教育が~」と始まっているのに、論の中心と結論が職場体験についてしか述べられていないのには違和感があります。変な意見すみません。

いえ、全く変ではないと思いますよ。実は僕もその点は感じつつも「まぁ、小中学校におけるキャリア教育はほぼ"職場体験"のみと言ってもそれほどオーバーではないと思うから、もうこのタイトルでいいや」と思ってこういうタイトルにしたという経緯があります。なので、「初コメ」さんの違和感は全然自然なものですし、この記事のツッコミどころを的確に捉えていると思います。

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